詩「ピンクのキッチン」「よるのほし」

2022年に作った本『いつも誰でもいうことを特別にした』から「ピンクのキッチン」と「よるのほし」という2つの詩を載せます。

ピンクのキッチン


爆発音で目がさめる 壊れた二階でねむる朝
キッチンでは
ピンクのジャムが粉々に弾けとんだらしい
窓のそとで せわしなく野鳥が泣き
ばらばらになった自転車が一台 ころがっている
おはよう彗星の戦士さま
わたくしはピンクのキッチンで素早くパンツを引っぱったあと
鉄くずを溶かしたこわい味噌汁を食べました

ひからびた服の こけしの夢
十字架が刺さった 田んぼの影
川に流した 犬歯の穴
ピンクのキッチン さようなら
おやすみ彗星の戦士さま
わたくし しめじが食べられるようになりました
おやすみピンクのキッチン
愛を知りました こんなやさしい朝に

よるのほし

檸檬の木になる よるのほし
なんだか頭がざわざわする夜
雨も車も何もないのに
魚のしっぽがひとつだけ家のまえに落ちていた
ふざけた郵便局員のしわざにちがいない
わたしはそれを箸でつまんで
いちばん赤いポストに放りこんでやった
それから、冷えた湯たんぽのなかで固まった
アイスクリームをえぐりだし
じぶんのポストに塗りつける
よいしょ よいしょ
白いポストだ
眠気がさめた
鐘の音がきこえるよるのほしで きょうも
だれかとだれかがハイタッチするのを
ゆるさなかった魚がいた
かつてだれかのハイタッチによって
しっぽがねじ切れてしまった もう家には帰れない魚
こんなよるに そんなことはやめてくれ
魚はいつもそう叫ぶ 朝も昼も ねごとでも
公園のベンチで眠っている
家にはもう帰れない魚
わたしは空になった湯たんぽを
ベンチへ届けるための みじかい旅に出る
魚がなにに使うかは見当もつかないが
こんなものが案外やくにたつ気がするのだ


こんばんは
ついたころには 魚はもう眠っていた
しっぽのないからだを横たえて
わたしは魚のとなりに冷えた湯たんぽの空を転がした
ううん ううん
魚はうなった ベンチがすこし揺れたのだろうか
となりのベンチに座って しばらく魚を見ていた
そうしたら変な歌を思いついたので
ちいさな声で歌った

おがくずが ほしくても
きらいな大工に 会いたくない
地面にこぼしたホットチョコレート
すすっているほうが
ましさ ましさ

魚が起きてしまった
いい歌だな
魚はそう言って湯たんぽにもぐりこんだかとおもうと
スペアのしっぽを取りだして
さっさと家に帰ってしまった

わたしは湯たんぽをさかさまにしてベンチに叩きつけた
すると なかからもうひとつしっぽが出てきたから
指でつまんで 空に放り投げたら
オレンジのとりが新幹線みたいにとんできて
どこかへくわえていってしまった

本「いつも誰でもいうことを特別にした」書影
いつも誰でもいうことを特別にした(2022)販売は終了しました